コバルトはその名の通り、首元の羽がコバルト色に輝くハトだった。彼のトリ生は常に「胃袋の小石」に悩まされていた。
朝食につい食べすぎてしまったパンくずが、午後に突然、彼の腹部に不穏な動きを引き起こすのだ。それはまるで彼の胃袋に小さく尖った小石がゴロゴロと転がっているような不快感だった。
医者(町の広場にいるベテランのカラス、通称「博士」)は、「過敏性腸症候群だな。人間でいうところの。気にすんな」と、いつもそっけない診断を下す。コバルトはこの不調を「僕の胃袋アンサンブル」と呼んでいた。今日の演奏は、静かなソナタか、それとも激しいシンフォニーか。
コバルトの縄張りには、妙なカザミドリがあった。それは、アパートの屋根に設置された、古びた鉄製のニワトリの形をしたカザミドリだ。風が吹くと、ギィギィと軋む音を立てて回る。
コバルトは、このカザミドリを「無言の相談役」と呼んでいた。なぜなら、コバルトが胃袋の不調で電線の上でうずくまっていると、決まってカザミドリが、まるで彼の痛みに同調するかのように、ゆっくりと、しかし確かな方向を指し示すのだ。その方向はいつもなぜか、町で一番美味しいパン屋の方向だった。
コバルトの心の中には、もう一羽、彼のトリ生に深く影響を与えたトリがいた。彼の従兄弟叔父、通称「逆さまのツバメ」だ。ツバメは生前、いつも逆さまにぶら下がって言っていた。
「コバルトよ、空はな、逆さまから見ると、意外な真実が見えるもんだ。特に、お前の胃袋が騒がしい時はな」。
そして、唐突に「そういえば昔この町で、すべての飛び立つトリが一度に止まった日があったな。私はその日、逆さまのまま、一日中空を見ていたよ」と、脈絡のない話をし始めるのだった。
ある日の午後、コバルトは公園で、つい大きなパンくずの塊を食べすぎてしまった。胃袋はたちまちゲリラ豪雨状態だ。彼は慌てて電線に避難し、腹部を押さえてうずくまった。その時、彼の胃袋アンサンブルは、これまでにないほどの激しい不協和音を奏で始めた。まるで彼の胃袋が「今日中に何かを伝えねば!」と叫んでいるようだった。
同時にアパートの屋根のカザミドリがギィギィと音を立てながら、いつもとは違う奇妙な方向を指し示した。それは、町のはずれにある誰も立ち入らない廃ビルの方向だった。
コバルトは、胃袋の痛みに耐えながらも、カザミドリの指し示す方向へと飛んでいった。廃ビルの窓からかすかに光が漏れている。中に入るとそこは、なぜか大量のピカピカに磨かれた小石で埋め尽くされていた。そして、その小石の山の中で、一羽の老いたスズメが、何かを地面に埋めている最中だった。
スズメはコバルトを見ると、驚いたように顔を上げた。そして彼の胃袋が大きく鳴ったことに気づくと、妙に納得したように頷いた。
「おお、まさかここまでその胃袋の振動が届くとは。私はね、この町の小石を少しずつ埋めているんですよ。重すぎるでしょう、世の中の小石は」
スズメはそう言って、コバルトの腹部をじっと見つめた。
「君の胃袋の小石も大変そうだね。でもそれは、君がこの世界の小さな変化を感じ取るセンサーだということでもある」
コバルトは、雷に打たれたような衝撃を受けた。彼の胃袋の不調は、単なる食べすぎではなかった。それは、彼がこの町の、あるいはもっと大きな世界の、目には見えない重さや変化を感知する能力だったのだ。
従兄弟叔父の「逆さまのツバメ」の言葉が、今、全く別の意味を持って響いてきた。「空はな、逆さまから見ると、意外な真実が見えるもんだ」。コバルトの胃袋の小石は、彼自身の不調であると同時に、世界が抱える重さの象徴でもあったのだ。
コバルトは、胃袋アンサンブルの最後の音を静かに聞き届けた。それは、痛みを伴う不協和音であると同時に、彼に与えられた、避けられない奇妙な才能の証明でもあった。
彼は自分がただ胃袋の小石に苦しむハトではなく、むしろその小石を通して世界の奥底にあるものを感じ取る、世界の聴診器のような存在であることに気づいた。そして彼は、胃袋の不調と町の小さな秘密を抱え、新しい空へ飛び立つのだった。
それからコバルトは、あの廃ビルに時折立ち寄るようになった。スズメは相変わらず小石を埋め続けている。コバルトの胃袋アンサンブルが激しく鳴ると、スズメは優しく微笑むのだ。「また何か感じたようだね」。
コバルトは、自分の胃袋の小石が自分だけの問題ではないことを知った。それは、世界と彼を結ぶ、奇妙で、しかし確かな絆だった。そして彼は、今日も電線の上で胃袋アンサンブルの音色に耳を傾け、カザミドリが指し示す方向を眺めている。今日もどこかで、小さな不協和音が生まれているのかもしれないから。
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